概要

近年、世界的に「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)」への関心が高まっています。SEAとは、現実社会に積極的に関わり、人びととの対話や協働のプロセスを通じて、何らかの社会変革(ソーシャル・チェンジ)をもたらそうとするアーティストたちの活動をいいます。彼らがめざしているものは、日常生活における小さな意識の変化から社会制度の転換まで、幅広く多様です。また、表現の手段や方法も、社会の具体的な課題や問題を、絵画・彫刻、映像、音楽、パフォーマンス、演劇など様々な創造領域と結びつけるもので、なかには、「これがアート?」と思えるようなユニークなスタイルもあります。しかし、どの活動も、社会との深い関わり(=エンゲイジメント)が強く意識されており、いっときのイベントに終わらない、持続的なアプローチを伴うものです。例えば、本展で紹介するペドロ・レイエスは、2008年から銃を回収するキャンペーンを展開し、銃をシャベルや楽器に作り替えた作品で、銃社会からの脱却を訴えてきました。
 このようなSEAの世界的潮流と同調するように、日本でも近年、地域社会と関わるアーティストが増えてきました。本展では、とくに3・11以降顕著となった、社会への関わりを強く意識した日本人アーティストの活動に注目し、海外の代表的なSEAプロジェクトとともに紹介することで、日本におけるSEAの文脈を掘り起こす試みです。展覧会では、実践事例のドキュメントを展示するほか、本展を機に新しいプロジェクトを展開する3組のアーティストの活動をライブと記録で紹介します。
 国内外の実践を比較議論し、日本におけるSEAの特性や可能性を探る、日本初の展覧会として、海外発信も予定しています。
 本展が今後の若いアーティストの活動を刺激し、加えて、地方創生が叫ばれる現在、地域のアート団体をはじめ行政、市民などに新しい発想をもたらすきっかけとなることを期待します。

会期:2017年2月18日(土)〜3月5日(日)
開館時間:11:00〜20:00 (最終入場19:00)
休館日:なし
観覧料:一般1000円/大学生以下500円(要学生証)

参加アーティスト(プロジェクト)

ペドロ・レイエス

Pedro Reyes

1972年、メキシコ・シティ生まれ。メキシコを拠点に、彫刻、絵画、音楽、パフォーマンスと多様な領域で活動する。2008年から継続するプロジェクト《ピストルをシャベルに》では、回収した銃をシャベルにして木を植え、《武装解除》(2012年)では、銃を自動演奏の楽器へと変身させた。「自分にとってアートとは本質的にネガティブなものをポジティブなものに変える方法を見つけることであり、社会や人々の意識を変えるような作品を作りたい」と語っている。第1回《人々の国際連合》(ニューヨーク、2013年)では、国籍や言語の異なる人々が集い、世界の諸問題について、社会学、心理学、演劇、アートなどの手法を駆使してユーモア溢れる創造的な解決を試みた。第3回は金沢で開催。

ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル 

Mammalian Diving Reflex/Darren O’Donnell

ママリアン・ダイビング・リフレックスは、1993年、ダレン・オドネルにより設立されたアート&リサーチ集団。ダレン・オドネルはカナダ生まれ。小説家、エッセイスト、劇作家、パフォーマー。公共の場でアーティスト以外の、多種多様な背景を持つ人たちとコラボレーションし非現実なスペースを作り出すことで社会的な文脈に介入する機会を作り出す。「近い将来、すべての子どもにハサミが与えられ、自分の未来を自由に切り取り創造できる社会にしたい。すべての子どもに社会での権利が保障され、未来に投票でき、参政権が与えられ、バスを走らせられる社会にしたい。」 パフォーマンス・子供たちによるヘアーカットにて。ダレン オドネル

西尾美也

Yoshinari Nishio

1982年、奈良県生まれ。同県在住。2011年、東京藝術大学大学院修了。文化庁芸術家在外研修員(ケニア共和国ナイロビ)などを経て、現在、奈良県立大学地域創造学部専任講師。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開。アフリカと日本をつなぐアートプロジェクトの企画・運営のほか、ファッションブランド「FORM ON WORDS」も手がける。主な個展に「間を縫う」(3331ギャラリー、2011年)など。近年の主なグループ展に「拡張するファッション」(水戸芸術館、2014年)、「あいちトリエンナーレ2016」、「さいたまトリエンナーレ2016」など。

明日少女隊

Tomorrow Girls Troop

2015年、様々な性別の第4世代若手フェミニストによる社会派アートグループとして結成。「男性、女性、いろんな性、 みんなが平等でHappyな社会を」をモットーに 展覧会やパフォーマンス、レクチャー、SNSでのコミュニティー作りなどを社会運動の一環と捉え、幅広く活動する。主なグループ展に「Feminist Fan in Japan and Friends」(アートスペース遊工房、2016年)、「Normal Family」(Last Projects、ロサンゼルス、2015年)、 パフォーマンスでは《Girls Power Parade 》(表参道、2016年)、レクチャーでは「保育園落ちた!選挙攻略法2016」(上智大学、2016年)など。

ミリメーター

mi-ri meter

2000年、宮口明子と笠置秀紀によって活動開始。建築、フィールドワーク、プロジェクトなど、ミクロな視点と横断的な戦術で都市空間や公共空間に焦点を当てた活動を続ける。日常を丹念に観察し、空間と社会の様々な規範を解きほぐしながら、一人ひとりが都市に関われる「視点」や「空間」を提示している。主な活動に《Tents 24》(セントラルイースト東京 、2005年)、《アーツ前橋 交流スペース 》(前橋市、2013年)、《仙台文学館を再編集する》(SSDせんだいスクールオブデザイン、2014年) 、《川と路》(鳥取藝術祭、2015年)など。

参加アーティスト(展示)

アイ・ウェイウェイ

Ai Weiwei

1957年、北京生まれ。父アイ・チンの下放により、生後すぐに一家で新疆ウイグル自治区に移住し16年を過ごす。1978年に渡米し、西洋の近現代美術と出会う。1993年に帰国。「ドクメンタ」展(2007年)、2008年開催の北京五輪メインスタジアム《鳥の巣》設計。同年の四川大地震で亡くなった何千人もの子どもたちの調査に着手し、人権運動を本格化させると、政府による直接的な介入が日常化する。森美術館での個展(2009年)は46万人を動員し、その後国際巡回するが、会期中の2011年4月に拘束され、81日間の拘留。現在はベルリンを拠点に活動。2016年、トルコからギリシアのレスポス島に流れ着いた難民たちが使ったライフジャケット14,000枚をベルリンの劇場の柱に巻き付けた作品で、難民問題に揺れるドイツや欧州、そして世界に問題提起をした。

スザンヌ・レイシー

Suzanne Lacy

1945 年、カリフォルニア州生まれ。1970 年代からアーティスト、アクティビスト、教育者、著述家として、実践と理論の両面で活動し、現在はLA のOtis College of Art and Design の大学院「Public Practice」コースで教鞭をとっている。レイプ、バイオレンス、高齢化問題、青少年問題など取り組むテーマは社会的だが、その参加型のアートワークは、メディアでの報道を勘案し、視覚的にも印象的な演出が特徴である。代表的プロジェクトには、LA の地図にレイプ発生地をスタンプする《5 月の3 週間》(1977 年)、高齢女性による対話パフォーマンス《クリスタル・キルト》(1987 年)、高校生とのコラボレシーション《ルーフ・イズ・オン・ファイア》(1994 年)などがある。

フィフス・シーズン 

Fifth Season

オランダ、デン・ドルダー(Den Dolder)にある精神科医療施設アルトレヒト(Altrecht)の敷地内にあるアーティスト・イン・レジデンス。精神医療と社会の間のギャップを埋めることを目的とし、1998年スザンヌ・オクセナーにより設立された。それ以来、精神病患者に対する偏見や差別などに関する問題を提起し、一人の人間として患者たちの話を社会に伝え続けている。春・夏・秋・冬の1シーズン(3ヵ月)、アーティストは広大な施設敷地内に建つスタジオ・ハウスで生活し、自身の観点から精神医学にアプローチする。それに加え、施設の患者やスタッフと日常的に接触しながら共に作品制作する機会が提供される。ここで制作された作品はオランダ国内外のギャラリーや美術館はもとより、精神保健機関などにおいて定期的に展示され、その成果は出版物としてまとめられる。これまでに、フィフス・シーズンには100人以上の著名、中堅、若手アーティストが滞在し、 2015年にはオランダのヘルスケアにおける最優秀芸術プロジェクトに授与される「エリザベス・ヴァン・シュトリンゲン賞」を受賞した。

パーク・フィクション/マージット・センキ/クリストフ・シェーファー 

Park Fiction / Margit Czenki / Christoph Schäfer

1995年、ハンブルグ(ドイツ)の貧困地区ザンクト・パウリの川沿いの土地に高層住宅とオフィスビルを誘致しようとする市の開発計画に反対してコミュニティ・プロジェクトを開始。地域住民の組合とアーティスト(クリストフ・シェーファー)、映像作家(マージット・チェンキ)が主導し、単なる抗議運動をするのではなく、開発予定地を自分たちの公共空間として、住民とともに、ゲーム、ピクニックやフェスティバル、展示、集会などに利用し続けた。また、ホットライン、アンケート、地図、インスタントカメラなどを備えた可動式の“プランニング・コンテナ”をつくり、近隣を回って、住民から要望を集め、実際の公園計画を作成。さらに、「ドクメンタ11」(2002年)をはじめ、多くのアート・イベントや音楽祭に、A.ロドチェンコの「Worker’s Club「を参照したドキュメンテーション/インスタレーションを出展。こうして、パーク・フィクションの活動は広く知られることとなり、その結果、2005年、市は計画を断念し、公園が実現した。その後も市民と分野横断的な専門家による開発事務所(PlanBude)を運営している。

プロジェクト・ロウ・ハウス

Project Row Houses

プロジェクト・ロウ・ハウスは、アーティスト/アクティビストのリック・ロウを中心に、ジェイムス・ベティソン(1955-1997)、バート・ロング(1940-2013)、ジェシー・ロット、フロイド・ニューサム、バート・サンプルズ、ジョージ・スミスによって、テキサス州ヒューストンの「第3区」で1993年に開始。アートを触媒としてコミュニティの再生を目指すプロジェクトであり、それを運営するNPOの名称でもある。リック・ロウは1961年、アラバマ州生まれ。ヒューストンのテキサス・サザン大学に学び、社会問題をテーマとした絵画や彫刻作品を制作。1990年代初めから、アフリカン・アメリカンの居住区として長い歴史を持つ第3区の生活や文化を描き続けた画家ジョン・ビガーズやドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」の考え方に影響を受け、コミュニティの社会的、経済的、文化的ニーズに直接応える活動に方向転換。打ち棄てられていた22戸の住宅を仲間とともに買い取り、改修して、アートと社会サービスを複合したプロジェクトに展開していった。

高川和也

Kazuya Takagawa

1986年、熊本県生まれ。 東京芸術大学修了。近年は主にインタビューや詩作、実験心理学を参照したワークショップ等を行う。 主な展覧会に「ASK THE SELF」(Tokyo Wonder site Hongo、東京、2016)、「screen」(HIGURE17-15cas、 東京、2014)、「Reflection of an outsider on outsider」(Seoul Art Space GEUMCHEON、ソウル、2011)など。

丹羽良徳

Yoshinori Niwa

1982年、愛知県生まれ。多摩美術大学卒業。ウィーン在住。タイトルに示される行為や企てを路上などの公共空間で試み、現実とのギャップや交渉の失敗などを含め社会や歴史へ介入しながら、その出来事の一部始終をビデオ記録として展示している。参加した主な展覧会に「瀬戸内国際芸術祭2016」(香川県直島、2016年)、「愛すべき世界」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2015年)、「歴史上歴史的に歴史的な共産主義の歴史」 (Edel Assanti、2015年)、「あいちトリエンナーレ2013」、「六本木クロッシング」(森美術館、2013年)ほか。

藤元明

Akira Fujimoto

1975年、東京生まれ。東京藝術大学卒業。1999年コミュニケーションリサーチセンターFABRICA(イタリア)に在籍後、東京藝術大学大学院修了。社会、環境などで起こる人の制御出来ない現象をモチーフに、絵画・オブジェクト・映像・インスタレーションなど様々な手法で展示やプロジェクトを展開。都市の隙間を活用するアートプロジェクト《ソノ アイダ》を主催。主なプロジェクトに《2021》《NEW RECYCLE®》。展示「HEYDAY NOW」(COURTYARD HIROO・2015年)、「Negentoropy」(HAGISO、2014年)、「この都市で目が覚めて」(HIGURE 17-15 cas、2016年)など。

山田健二

Kenji Yamada

2008年、東京芸術大学卒業。東京、ロンドンを拠点に活動。固有の文化圏に遺る民俗知や遺跡、戦争遺産を含む近代遺産などを国際社会の中で流用・誤用することで生まれる葛藤や矛盾を共有するための社会実践や表現活動を行なう。3.11以降、日本やヨーロッパを中心に各地を環境難民のように移動しながら継続する彼の活動は、より流動的な社会的立場の人間が国際社会にどう働きかけられるかという実践を含みながら、その臨界と限界に無数の段階を拡張し、新たな思考のグレースケールを浮かび上がらせる。主なプロジェクトに《別府地熱学消化器美術館》(2011年)など。

若木くるみ

Kurumi Wakaki

1985年、北海道生まれ。京都市立芸術大学卒業。自らの身体を作品の素材に用いた力づくの表現で、第12回岡本太郎現代芸術賞(2009年)、六甲ミーツアート大賞(2013)受賞。坂本善三美術館での個展「若木くるみの制作道場」(熊本、2013年、2014年)では、30日間で30作品、新作を発表した。近年の主な展示に「また起きてから書きます」(アキバタマビ21、2016 年)、「ユニフォーム」(Ponto15 / Finch Arts Gallery、2016 年)、「六本木アートナイト2016」など。

主催 特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
助成 文化庁、アーツカウンシル東京、資生堂
特別協力 オランダ王国大使館、ゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センター
企画協力 森美術館
協力 Wonder Art Production、学校法人三幸学園(東京未来大学こどもみらい園/東京ビューティーアート専門学校)、白水デジタルプリント工房、村尾信尚、OGU MAG、HIGURE
後援 カナダ大使館、メキシコ大使館、環境芸術学会
主催 特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター